屈指の傑作ヘンダーランド

僕は1991年生まれである。
ゆとり世代まっただ中である。
世間の評価が一番悪い年代である。

中学のとき、クラスの女子のヒカリちゃん(仮名)が、
「ウチら世代って、将来的に上からも下からも叩かれる年代だよね」

と愚痴っていたのを覚えている。

ちなみにヒカリちゃん(仮名)は、クラスで同じ班だった僕に
「こういう男とだけは結婚したくないわ」
と言ってきた女の子である。
(別に俺は結婚してくれとか言ってない)

だから当時ヒカリちゃん(仮名)にあまりいいイメージはなかったけれど、
でも、我々世代の受ける教育水準が不遇であるという主張には、なるほどそうかもしれないな、と少し納得させられたものだった。

まあ結局ゆとりが叩かれるのって、「ゆとり世代」という大きすぎる括りで馬鹿にされるだけであって、個人個人で言うと満足に教育を受けなかったなんてことはないのだろう。
エリートな中高一貫校なんかはカリキュラムも大して変わらなかっただろうし、
そうでなかった僕でも大学受験のときはだいぶ勉強せなならんかった。
学校で学ぶことで大事なのって知識というよりやり方とか活かし方だから、勉強する範囲が狭くなっても本質は変わらんのだと思う。


というか今回はそんなことをグチグチ書きたいわけじゃなくて、
このように少し恵まれない世代である91年生まれが、他の世代に絶対に負けない点があるんだよということだ。

それはズバリ、クレヨンしんちゃんである!

端的に言うと、クレしん映画第4作『ヘンダーランドの大冒険』を、主人公しんのすけと同じ年齢で観ることができたというのが最大の誇りである!

知ってる人も多いと思うけど、しんのすけは5歳児。
『ヘンダーランド』は1996年の映画だから、映画公開時に我々は4歳か5歳だ。
まあ百歩譲って一つ上の世代も恵まれてる世代に含めてあげよう。

『ヘンダーランド』は知っての通り、今まで公開された20数作の中でもトップクラスの名作的な扱いを受けている。

作品の完成度とか世間的な評価とかいう観点から言うと、巷でよく言われているように『オトナ帝国の逆襲』『戦国大合戦』あたりが1位2位を占めるのだろう。
もちろん『ヘンダーランド』の映画的完成度は大変に優れたものだけれど、『ヘンダーランド』がこれまでに絶賛されているのには、加えて別の理由がある。

それは、過去礼賛主義である。

人間というものは都合よくできていて、過去の出来事はだいたい負の部分は除外され、過度に美化されて想起されることが多い。
死んだ人間に対して負の感情を抱かないのと同じである。

だから、小さい頃に見た思い出に残る映画は、ものすごくいい映画として強く記憶に残るし、大人になってから見ても楽しめるのだ。

でもこれだけでは『ヘンダーランド』の人気を説明できない。
というか「過去礼賛主義」って、悪い意味みたいに聞こえるな……そういうわけじゃないんだ

ではなぜ『ヘンダーランド』はここまで絶賛されるのか?


ここからは完全に僕の考えだけれど、
『ヘンダーランド』は、子ども(特に5歳程度)が特に楽しめる作品だったと思うのだ。
言い換えれば、子どもたちがしんのすけに感情移入しやすい作品だったとも言える。

なんたって舞台は遊園地、子どもの大好きなテーマパークである!
見ていて楽しいし、ワクワクする。22歳の今でもワクワクする。

しかも物語の中でしんのすけは成長していく! これほんと素晴らしいとこ
最初は怖がっていてトッペマに意気地なしって言われたけど、
自分が行かないと父ちゃん母ちゃんが(あと世界が)助けられないと考えて、
最後は一人で群馬のヘンダーランドまで行って、一人で敵をやっつけるのだ。
しんのすけが「たった一人で」敵のとこまで行くのはこれが始めてじゃないかな
そして敵を倒した後トッペマに抱きついていくしんのすけギザカワユス

本来、主人公とは観客の心情を写す鏡であって、
映画だけでなく小説や舞台演劇においても、観客がいかに主人公の気持ちを理解できるか、感情移入できるかってのが大切になる。

ところが、クレヨンしんちゃん作品においてしんのすけ自体に感情移入するというのは非常に難しい。
なぜなら主人公が破天荒だから!

クレヨンしんちゃん映画を作る側としてほんとに難しいだろうなと思うのは、
一歩間違えれば、しんのすけがただの鬱陶しいガキに、ひろしとみさえがただのDQN親になりかねないところだと思うのだ。
そうなると観客にとってはストレッサーにしかならない。主人公とその両親を見てストレスがたまるようになっちゃうともうその作品はだめだ。
ぶっちゃけ数年前のクレしん映画でそう感じてしまった作品はある。

その点『ヘンダーランド』はものすごく上手にしんのすけを描いていて、
作品全体のテーマパーク的雰囲気も相まって、子どもがどっぷり映画の世界に入り込めるようになっている。

傑作である。
ほんとに、子ども向け劇場アニメとしては最高傑作だと思うよ。
大人が見ても評価できないかもしれないけど

子どもは感情移入できるぶん、大人のひろしやみさえなどはかなり脇役的(しんのすけの引き立て役的)に描かれていて、特に『オトナ帝国』『戦国大合戦』などの原恵一作品でよく見られる「家族一丸」的な、家族のつながり、あたたかみとかそういうものは重視されていない。
あくまで子ども一人に焦点を当てて、見ている子どもも一緒に成長していく物語になっている。

まあそんなだから子どもには強く印象に残るし、
過去に『ヘンダーランド』を見た僕たちも今『ヘンダーランド』を見てもう一度興奮できる!

小さい頃に『ヘンダーランド』を見なかった人たちが哀れで仕方ないですわ……

ギャグの面も非常に秀逸。
最後のババ抜きは今でも語られる屈指のギャグシーンだけど、
個人的には、魔法がホンマなことを証明するために毎回召喚される雛形あきことか好き。


ああなんかもうもっと好きなシーンとかセリフとかスタッフとか声優とか書きたいこといっぱいあるですが、俺の拙い文章で『ヘンダーランド』をこれ以上汚してもいけないので、これで終わります