クレしんと敬老の日

ここ最近のクレしん映画は、監督もころころ変わって、ネタ尽きた感とか、有名人プッシュしていく感とか、あまり見たくない雰囲気が漂ってきているような気がする。
もちろん資本主義社会のなかで配給会社も必死だから、プロモーションに必死になるのはわかる。
でも、僕はまだ「映画でやるクレしんのネタが尽きた」とは思っていない。まだ、映画にできるのにしていないクレしんの材料がある。

それは、銀の介じいちゃんだ。

銀の介じいちゃん(以下、銀ちゃん)はしんのすけの父であるひろしの父。つまり父方の祖父
最近はスペシャル版でもあまり登場しなくなったなぁ……

一般に、一人の人間に対してじいちゃんばあちゃんは、母方父方で四人が存在する。
ところが、クレヨンしんちゃんでは父方の祖父である銀ちゃんだけが異色を放っている。

というのも、しんのすけは銀ちゃんのいろんな部分を受け継いでいるからだ。

しんのすけの造形は、眉毛は父親、目は母親ゆずり。
中身は、きれいなおねいさん好きの部分は父親、ぐうたらな部分は母親ゆずり。
そして、輪郭とナンパ好きなところは完全に銀ちゃんゆずりなのだ。
両親と同格で形質を遺伝するほど、祖父母の中では存在感を放っているのが銀ちゃんなのである。

特に、銀ちゃんのナンパ好きな部分。
いつもアポなしで春日部に来るときとか、一緒に旅行に行ったときとか、いつもそのへんの女の子を手当たり次第ナンパする。
もちろんしんのすけもそうだから、二人は(息子のひろしが呆れるくらいに)意気投合する。

個人的な話になるけれど
それが、子供のころ僕がおじいちゃんに遊んでもらったときを彷彿させるのだ。

僕にも父方と母方の二組の祖父母がいる。
しんのすけと違って父方の祖父母とは同居していて、母方の祖父母には年に一度か二度ほどたまに会いに行っていた。

僕が小学生とかそれくらいのときのこと
大阪に住んでいる母方のおじいちゃんの家に遊びに行くと、おじいちゃんはいつも寝る前に僕が寝る布団にやってきた。

そしていつも、僕と妹をくすぐり倒す。
脇の下とか足の裏とか、くすぐったくて笑っちゃう部分をこねくり回す。
そういうところが弱い僕は、お腹の筋肉が攣るくらいに笑いこける。
笑うと、なにもかも楽しく思えてくる。涙が出るくらいに笑う。
おじいちゃんも笑っているのも見て、僕は幸せになる。

だから、僕はおじいちゃんの家が世界中のどの空間よりも大好きだった。

それも、年に数回しか行かない限られた場所だったからこそ、貴重な幸福だったのだろう。

毎日会ってる父方のおじいちゃんにはあまりそういう感情は抱かないからね

このように、
普段は離れてくらしているけれど、年に数回かだけ遊びに行き、
そのたびに一年分くらいの笑顔をこぼして帰ってくる場所がある、という

そういう意味で僕はしんのすけと銀ちゃんの関係性に共感していたのだ。

昔は銀ちゃんがアニメに出てくるだけでワクワクした。
このキャラがいれば絶対に楽しい作品になる。やがてそこで、大阪のおじいちゃんを思い出す。


そして僕は、しんのすけと銀ちゃんの関係性は一本の劇場版アニメにできるほどだと確信している。

僕が一番好きな原恵一監督は、人と人との(特に、家族の)つながりを重視した作品をよく作っていた。
もう十年以上前にバトンタッチしたけど、僕もそういう作品がものすごく好きだった。
でも、その中でも「じいちゃんばあちゃん」はほとんど登場しなかった。

来年の新作も、ひろしとの別離→親子の絆の再認、ってストーリーだと思うんだけれど、それって『カスカベ野生王国』で見たのとすごく似てるんですよね。
次は脚本が中島かずきだから、今までと違うのかもって期待はしてるけど!
とまあとにかく、祖父母とのつながりを描いた作品が少ないのは、もしかしたら核家族化が進行した日本を象徴していたのかもしれない。

でもね、臼井儀人が残していった「クレヨンしんちゃん」の愛すべき登場人物たち。
その中でも特に美しく、貴重な人物が野原銀の介だと思うんですよ。
特にしんのすけという愛孫とのやりとりは、常にギャグ調のタッチだけど、その中には言葉にしなくとも何よりも大きな絆が感じられる。
「二人しておバカ」みたいな光景を見て笑えるのは、きっとギャグのおかげだけじゃない。
愛し合ってる二人を見てほのぼのするっていう笑顔もあると思うんだ。

そんな二人の関係は、長編で作りこめばもしかしたら『オトナ帝国』を越える感動モノになるかもしれない。
それくらい価値ある材料であることは確信している。まあそうするなら監督は原恵一以外にないけども

僕が一番好きだったTVスペシャル版の『クレヨンウォーズ』から、もう15年以上経った。
この作品にも、野原一家以外の家族で登場していたのは銀ちゃんだけだった。

僕は逆に、核家族化が進行したからこそ、おじいちゃんをテーマにした作品がいま必要とされていると思っているよ
最近のクレしん映画は一回しか見てないものばかりだから生意気に評論できないけど、こういうテーマもやっていいんじゃないかな。